法改正の背景：
越境ECと製品安全の「空白地帯」

従来の法律は、製品を国内に輸入する者を「特定輸入事業者」として特定し、安全責任を負わせることで、事故発生時の対応窓口を確保していました。しかし、越境ECではこの責任の仕組みが機能しなくなりました。

1. 特定輸入事業者の不在

海外のメーカーが日本の消費者へ直接販売する場合、日本国内に「業として輸入する者（特定輸入事業者）」が存在しません。これにより、以下の「空白地帯」が生まれます。

• 安全基準適合確認の不在:
  製品が日本の技術基準（PSE、PSCなど）を満たしているか、誰も確認しない。
• 事故対応窓口の不在:
  製品が重大事故を起こしても、消費者庁や経済産業省が連絡を取るべき国内の責任主体がいない。
• リコールや回収の不可能:
  問題製品の回収や、消費者への注意喚起が効果的に行えない。

2. IoT製品の増加による新たなリスク

スマート家電やワイヤレス機器など、IoT（Internet of Things）製品の増加により、サイバーセキュリティも製品安全の一部と見なされるようになりました。単なる物理的な安全性だけでなく、情報漏洩などのデジタル面のリスクにも対応できる法制度が求められています。

「国内管理人」制度の導入と役割

この「空白地帯」を埋め、越境ECによる安全性の問題を解消するための仕組みが、法改正によって導入された「国内管理人」制度です。

1. 国内管理人の定義

• 設置義務者:
  海外の製造事業者が、日本の消費者へ直接、規制対象製品（特定製品など）を販売する場合。
• 役割:
  海外メーカーと日本の消費者の間に立ち、法的な義務を履行するための窓口となります。

2. 国内管理人が担う具体的な職務

• 技術基準適合確認:
  輸入製品が日本の技術基準を満たしていることを確認し、その証明書類（設計図、試験データなど）を保持します。
• 検査体制の確保:
  輸入後のロット検査や抜き打ち検査など、製品の品質が一定に保たれていることを確認する体制を確保します。
• 苦情・事故対応の窓口:
  消費者からの苦情や事故情報を国内で一元的に受け付け、海外メーカーと連携して迅速に対応します。重大事故が発生した場合は、速やかに経済産業省へ報告する義務を負います。

3. 制度導入の意義

国内管理人の設置を義務付けることで、海外メーカーは日本市場で販売する際に、必ず日本の法律を遵守する責任主体を国内に置くことになります。これにより、消費者への安全確保と事故発生時の追跡・対応が可能となり、日本の製品安全制度の実効性が大幅に向上します。